E・L・カニグズバーグ「クローディアの秘密」(岩波少年文庫/S)

主人公のクローディアは長女であるが故にいつも兄弟の世話ばかりさせられていて、その境遇を不公平に思っていた。ある日彼女はとうとう決心を固め、兄弟のなかではしっかりものの弟のジェイミーを連れて家出することにする。
「バイオリンのケース」「トランペットのケース」に服を詰め込み、ためていたお小遣いで一路ニューヨークへ向かった二人の目的地は「メトロポリタン美術館」。二人はここで過ごすことにしたのである。そして、ただ過ごすだけでは面白くないからと美術館の中を探索していている中で、255ドルで美術館が落札した「天使の像」が話題になっている事を知る。学者によればこの像はミケランジェロの作品であるといわれるが、真贋が議論されているという。はたしてこの像を作ったのは誰なのか。二人は調査を始めるのだが……



といったストーリー。
「」でくくったところをみれば明らかであるように、大貫妙子の名曲「メトロポリタン美術館ミュージアム)」のヒントになったとされる児童文学であり、1968年のニューベリー賞受賞作。念のために書いておくと、「メトロポリタン美術館」はNHKのテレビ番組「みんなのうた」で映像化された歌である。
ただし、「メトロポリタン美術館」のほうは、あくまでもヒントになったということであって、赤い靴下をかたっぽあげるわけでもないし、大好きな絵の中に閉じ込められるというわけでもない。実際に私も読む前は絵の中に閉じ込められるのかと思っていたから、ちょっとだけ予想を裏切られた気がしないでもない。そういった点ではリアリティ重視の作品である。
さて、この小説は児童文学として見るとなかなか面白い。子供の立場からすれば謎を提示することによって好奇心をうまく刺激してくるし、大人の立場で読んでも、幼い頃のちょっとした心情の変化、ささやかな反抗、尽きることの無い探究心、そしてひっそりと内に隠していた「秘密」を思い起こさせてくれる。そういった意味においていい作品である。
万に一つ、億に一つ(いや、実際は「不可説不可説転」に一つくらいだろうが)の可能性として、自分に子供が出来たら読ませてあげたい本だ。ちなみに二番目は「ちびくろさんぼ」ね。


フランクワイラーおばさん(語り手)の以下の台詞がお気に入りである。

「秘密を胸に持って帰るっていうのが、クローディアの望みなのよ。天使には秘密があったので、それがクローディアを夢中にもさせたし、重要にもさせたのですよ。クローディアは冒険がほしいのではないわね。お風呂や快適なことが好きでは、冒険向きではありませんよ。クローディアに必要な冒険は、秘密よ。秘密は安全だし、人を違ったものにするには大いに役立つのですよ。〜」

ここで自分の若い頃を振り返って愚痴ることも可能だが、ここは敢えてそれをやめておくことにしよう。今、読めたからそれでいいや。




本当は他に4編を収録した単行本のほうを買いたかったのだが、2600円はお財布にはやさしくない値段だと思って文庫にしておいた。ただ、この作品が面白かったから、機会があったら読むつもりではいる。これは、秘密。