【「アンパンマン」についての一考察】
ということで、バタコさんの投擲力でも検証してみましょうか。
アンパンマンではほぼ毎回見られるシーンがあります。

ばいきんまんの策略により力が出なくなったアンパンマン。そこに救世主のごとく現れるアンパンカー。中ではジャムおじさんアンパンマンの顔のスペアを焼いていて、車の中から顔を出したバタコさんが「アンパンマン、新しい顔よ!」といってアンパンを投擲。見事、頭は新品の頭に入れ替わり、勇気百倍アンパンマン。そのままばいきんまんはアンパンチで「ばいばいきーーーん」……

そう、こんな感じです。
しかし考えてみればバタコさんの腕力は強すぎますよね。この本の記述に従えばアンパンマンの頭の重さは38kgとなっています。それを数十メートルの距離がある場所から正確無比に投げる必要があるわけです。
投擲力ということで、オリンピックの砲丸投げを考えて見ましょう。投擲といえばハンマー投げなどもありますが、あれは純粋な腕の力というよりはグルグルまわりながら遠心力によって投げる競技ですから、あまり適当ではありません。
さて、砲丸投げで女性の場合、使う砲丸の重さは4kg。それで女性の世界記録はナタリア・リソフスカヤの22m63cmということになっています。22mといえばアンパンカーとアンパンマンの間の距離として手ごろな距離です。目視でもそれくらいの距離はあると見ていいでしょう。ここでは(簡単のため)バタコさんも同じ22mを投げると仮定しましょう。*1
ところで、ここで問題となるのはアンパンマンの頭の重さ。砲丸投げが4kgに対してアンパンマンの頭が38kgですから、9.5倍。投げるときに必要なエネルギーも大雑把に言って9.5倍になります。しかも、ここでさらに考慮しなければならないのは、バタコさんには助走するスペースが無いということ。砲丸投げでは2.135mの円の中から投げれば良いので、それなりに助走するスペースが取れるのですが、どう見てもあのアンパンカーにそういうスペースはありません。助走すらなく世界記録の9.5倍の重さのものを軽々と投げることになるわけですね。
しかも、このときには正確に投げなければなりません。砲丸投げでは34.92度の扇形の中に入ればどのように投げてもOKです。つまり、角度に余裕があります。多少右に投げても左に投げてもルール上問題ないわけです。しかし、バタコさんにそんな余裕は存在しません。頭の直径を本書の記述に合わせて76cmとしましょう。本来ならアンパンマンが頭をキャッチすべく適宜動いておけばいいのですが、ばいきんまんに捕捉されて頭を動かすことの出来ない場合も多いですから、投げたときに許容されるズレを頭の半分の38cmとしますと、投げるときに許容される角度のズレは約2.18度。どう考えても凡人には無理です。
角度だけならそれほど無茶ではないかもしれません。2.18度といえば、直径19cmの円筒形のゴミ箱が5m先にあったとして、それにゴミを投げるような感じです。しかし、投げるものは38kgの重さの巨大なアンパン。そんなに簡単に角度の調節が出来るようなものではありません。それだけの投擲を正確無比に実行するのですから、バタコさんが袖をまくったら筋肉隆々だったりして……
まあ、バタコさんは人間ではないので人間と比較して考えるのもどうかと思いますけどね。*2

こうバタコさんの腕力の強さをアピールしてしまうと「アンパンチの打撃力の方が強いだろう」という指摘もあるかと思いますが、「空の星になるくらい飛ぶ」というあたりの検証がやっかいですね。前例が無い事を期待しつつ考察してみましょう。
そもそも、「空の星になる」というのはどういうことなのでしょう。大気圏で燃え尽きると考えても良いのですが、そもそも見えるものなのでしょうか。
2003年いスペースシャトルのコロンビア号が大気圏突入時に機体分解を起こしたことは記憶に新しいところです。あの時の高度は62000mほどだったとされています。*3「スペースシャトル「コロンビア号」との通信途絶におけるNASAの状況」
コロンビア号の爆発の様子は、ご存知の方も多いでしょうが、はっきり目にすることが出来ました。62000mの高度で起こった爆発であるにもかかわらず。ただ、あれはいろいろなものを積み込んだスペースシャトルの機体だから可能なのであって、体長がせいぜい1.5mほどしかないバイキンの固まりが燃え尽きたときに同様の爆発が起こるはずも無く、目視できる可能性はほぼ無いでしょう。あらら、打撃の力云々を考える前に考察が止まってしまいました。


もっとも、これを言うなら、そもそも「そんなに飛んで行くような力で殴られて、肉体が四散しないほうがおかしい」とか「どうして次の回になると復活しているのか」とか、突っ込みどころは幾らでもあります。というわけで話がややこしくなる前にこのへんで。

*1:ちなみに仮に距離を短めの半分の11mとすると、投擲するときの偏角を最も効率の良い45度と仮定して、投擲の際に要求されるエネルギーは半分の約4.8倍になります。まあ、これでも半端ではない力の持ち主であるという結論は変わりません。

*2:バタコさんは作者の設定上、ジャムおじさんと共に妖精ということになっています。ただし、アニメのウェブサイトの紹介記事では「ふつうのにんげん」ということになっていますが……

*3:スペースシャトルの爆発といえばチャレンジャー号が有名ですが、あれは打ち上げ直後なのであまり参考になりません