山崎浩一「平成CM私観」(講談社
平成元年から平成3年にかけて放映されたCMに関するエッセイ集。割と毒舌である。見開き2ページで一つのCMを俎上にあげ、世相と一緒に斬っていくような具合。
とりあえず怖いCMに限定して取り上げることにするけれども、まずはTOSTEMのホラーCMが見たくてたまらない。しかし放映からわずか9日で放映中止とあっては、さすがに録画している人も少ないだろうし、発掘される可能性は低いのだろうな。

マンションのベランダらしき場所に、ワイシャツとチノパンという平凡ないでたちの男が立っている。
(中略)
ナレーション「ご近所の人の顔、ぜんぶ知っていますか」
また西部あたりの生活提言CMかしら……と思った瞬間、やにわに男はストッキングを頭からかぶり、隠し持っていたスパナを握り締め、こちらに突進してくる。(中略)ベランダから室内に侵入しようとしたとたん、窓のシャッターがバタバタと閉じ、男の侵入を阻む。(中略)
ナレーション「マンションの防犯にアリーズ。TOSTEM」

さらにティッシュエルモアのCM。

息子の勉強部屋のドアを開けずにたたずむ母親の上半身のアップ。(中略)廊下から差し込む淡い逆行を浴びた能面のような表情には、凍りついたような微笑がたたえられている。(中略)
「マーちゃん……勉強ばっかりしてないで……たまにはティッシュも使いなさい……」

怖がっていいのか、笑っていいのか困るのだが。あえて言わないけれども。
こんな具合でホラーCMもいくつか取り上げられているのだが、もちろんメインがこういうホラーCMというわけではないので念のため。そもそもホラーCMなんてものはマイノリティでしかないのは言うまでもない。
そんなこんなでCMを肴に延々と毒を吐いているのだが、著者は禁煙CMについてだけは喫煙者の味方をしている。非喫煙者としてはそこがしっくりこないところ。日本ではそれほどでもないが、海外ではかなり過激な「反喫煙キャンペーン」が行われている現状を考えれば、その手のCMについて取り上げるのも必要ではなかろうか。海外の反喫煙CMは割とインパクトがあるんだよね。
たとえばこういうものがある。

1.会社の休憩時間。ベランダで何人かが集まってタバコを吸っている。そこに一人の男がタバコを片手に近づいていく……ところが、とたんにベランダが崩れ落ち、地面に落下する。男はタバコを慌てて口からはなし、その場から立ち去る……

2.アメリカのニューヨーク辺りの風景。さまざまな人種の人々が道を歩いている。
ナレーション「アメリカでは毎年大勢がタバコを吸い始めています。しかし、そのために毎年犠牲になる人が……」
それと同時に、通行人が次々と車にはねられていく。最後に画面は暗転し、メッセージを表示して終わり。

3.フランスのCM。「毎日1万人がタバコによって死んでいます、タバコは自分の寿命を短くし……」云々とタバコの害についてしばし講釈しながら喫煙者の様子を映し出す。
そんな中、一人の男がタバコを買いにやってくる。店主は男にタバコを投げつける。それと同時に男は警察官らしき男達に「私はタバコを吸うクズ人間です」と書かれたTシャツを着せられ、頭を丸刈りにされて戸外に放り出される。あわてて男は逃げ出すのだが、店の2階にはスナイパーが構えていて、男は射殺される……

海外のCMはメッセージを直接に伝えるのが好きだ。何かの本でアメリカなどは人種が多様で共通認識も異なるから、直接的なメッセージでなければ意図を伝えられない云々という説が述べられていたけれども、あれは何だったか。このあたりに国の違いが垣間見えるのは興味深い。日本でこういうCMを流すべきだとは思わないけど。