時雨沢恵一キノの旅Ⅵ」(メディアワークス


ベルギーではワッフルを食べるなどという話を聞くと、猫も杓子も毎日三食死ぬまでワッフルなのかと思いがちだが実際にはそんなことはない。このように、国家に限らず物事を一つの考え方で捉えるのはとんでもない間違いを生むことになる。『キノの旅』はここを突いてくる作品である。たとえばキノが使っているエルメスは空を飛ばないが、適当にチャカチャカ改造すればエルメスは空を飛ぶかもしれない。アムール川縦断くらいはさらっとやってのけるかもしれない。他にも、陸が陸の幼なじみと結婚することになって結婚資金が入用になり、本書の冒頭でいさかいを止めるのではなくて二人とも斬り捨てて宝を奪い取り、シズ様ウッハウハ!な展開だって考えられないことはない。まあ、実際にそんなことになればいくら師匠の左腕としてマスター・オブ・『カノン』ばりに研鑽したキノとはいえ「そんなバナナ(死語)」という状態になりかねないから実際には起こらないだろうけれども、ないこともない。そういう多様な可能性こそが重要なのであり、本作はその良さを敢えて固定化された価値観を持つ国家を描くことによって現出しているのである。
また、作品の登場人物像は個人の解釈に依存するところが大きい。国家と比して複雑な行動をとる登場人物の数々は、そこのことを明確にしている。たとえば私の場合、キノはクールな性格であると思っているのだが、中には「キノ萌えー」な人だっているだろう。もしもキノがドレスを着たら確実に萌え派が増えるはずだ。国境で入国審査をしたら「この国では結婚業界に重点を置いておりまして、国民全員にウエディングドレスを着ていただくことに〜(殴死)」とか。個人的には、エルメスを改造すると面白いのではないかと思う。たとえば両脇に翼をつけて、尾翼もつけて、塗装のはげたところをなおして、フリルまでつけてしまえば、ほら、とてもセクシー!


なんと言うか、もう、ごめんなさい。
私としては「彼女の旅」「祝福のつもり」あたりがお気に入り。