デヴィッド・ケレケス、デヴィッド・スレイター「キリング・フォー・カルチャー〜殺しの映像〜」(フィルムアート社)


この本では、まず実際の殺人シーンが使われたというデマで有名になった映画『スナッフ』の紹介を行い、それからいわゆる「スナッフムービー」という都市伝説について考察を加えている。そしてモンドムービーやメディアに露出した死の歴史を俯瞰することで、「殺しの映像」或いは「死の映像」というものがいかに人間の文化にかかわって来たのかを詳らかにしている。
本屋のサブカルコーナーにあるような悪趣味な内容ではなく、膨大な資料と知識を駆使して詳細な分析を行っている本だと言って良い。特にモンドフィルムについてはかなり詳しい紹介がなされている。フェイクについての考察も詳しい。そういうものが好きな人にはおすすめである。
たとえば『ザ・ショックス』には電気椅子による処刑のシーンがあるが、著者はそのシーンが『ディス・イズ・アメリカ・パート2』からの転用である事を示した上で、この映像がフェイクである事を指摘している。
また、有名なサイゴンでの仏教僧の焼身自殺の映像についても、実際に撮影されたフィルムの存在を認めつつも、少なくともヤコペッティの『続・世界残酷物語』に使用されているものはフェイクであると述べている。『ザ・ショックス2』の最後に登場するのもこの映像なのだが、こちらはフェイクの論拠となる肝心なシーンが収録されていないのでフェイクなのかどうか今ひとつ分からない。
いずれにせよ、ここまで詳しく書いた本は初めてだ。


ただ一つ気になるところもあって、ブラッドフォードでのサッカー試合中に起こった火災について

だが、この残酷なシーンは二度と流されることがなく、その後作られたドキュメンタリーにも登場していないということは、このフッテージに対する厳しい規制が行われた事を示している

というのはどういうことなのだろう。少なくともブラッドフォード火災の映像は見かけるし、「決定的瞬間」シリーズにも登場する。火だるまになったサポーターや大火傷を負って助け出されるサポーターの姿を捉えたフィルムは別段珍しくもない。それらよりも「間近で捉えた」映像が規制されたということなのだろうか。


……まぁ、こういうのが宜しくない話題だというのは承知しているので、これ以上細かい事を書くのは止めておこう。
ただ最後に一つだけ言うなら、どうして本の締めくくりとして検証しているのがロズウェルの宇宙人解剖ビデオなのかと……よりによってあんなビデオを取り上げるなんて。