夢野久作夢野久作全集3」(ちくま文庫/S)


以前購入したものの、途中で読むのを中断していた。
久しぶりに取り出して読み直してみたら、存外スラスラと読み進めて、気が付いたら読み終わっていた。要するに、この中の一作があまり自分の口に合わなかったということなのだろう。どれかは敢えて言わないことにする。


まず、最初に載っている『猟奇歌』が面白い。短歌の形式をとっているものの、内容はすべて猟奇的。

ピストルが俺の眉間を睨みつけて
ズドンと云った
アハハノハツハ


わが心狂い得ぬこそ悲しけれ
狂へと責むる
鞭をながめて


すれ違った白い女が
振り返つて笑ふ口から
血しほしたゝる

怪しげな雰囲気がたまらない。
『悪魔祈祷書』は聖書の内容を悪魔崇拝に書き換えた古書が見つかる話。途中が削除されているので、そこに何があったのか気になって仕方がない。載せることの出来ない内容ということになれば、ますます気になるというのは自然なことだろう。
『白菊』は網走の刑務所を脱獄した男が謎の屋敷を訪れて、奇妙な出来事に巻き込まれる話。ちょっとした描写ですら、読者をその世界に引きずり込んで呉れる。
全体として、この独特の雰囲気が面白い。また他の作品も読んでみたくなった。