眉村卓「産業士官候補生」(角川書店

「工事中止命令」「最後の手段」「虹は消えた」「助け屋」「クイズマン」「ガーディアン」「スラリコスラリリ」「午後」「産業士官候補生」の九つの短編からなる短編集。

今回は「電子書店パピレス」で購入してみた。amazonでもユーズドで売られていたが、こちらのほうが安上がりだから。本の到着を待たないで良いからすぐに読めるし、安上がりだというところは良いのだが、パピレスはテキストファイルでの販売であるところに注意を要する。テキストファイルだから、印刷された本ではなく、txtファイル(正確にはそれをexeファイルに詰め込んだもの)の状態で届く。読むときにはメモ帳で読むことになるのだが、これが意外としんどい。
後になってT-Time(電子本ビュアー)を使えば本のように読めることに気が付いた。もう少し早く気付いていればよかったのに。

それはさておき、内容は近未来を舞台にした小説。
一作目の「工事中止命令」は大友克洋のデビュー作の原作となった作品だ。
アフリカのジャングルに近代都市を作ることになったのだが、国内でクーデターが起きて工事の契約が破棄される。しかし工事はロボットが行っており、ロボットを統括するはずの人間が行方不明。工事を続ければ莫大な損失が生まれるため、やむを得ず主人公が現場に行ってロボットを止めることになるのだが、ロボットは工事の進行にかかわることしか受け入れず、工事の中止を命令することも出来ない。さらには主人公自身がロボットから管理される側に回ってしまう……という話。
五作目の「クイズマン」は某クイズ本に取り上げられている。
プロのクイズプレイヤーながら最近は負けてばかりのチームに謎の少年が入団する。彼は普段から遊んでいるにもかかわらず、暗記に明け暮れるチームのメンバーを凌ぐ知識量で試合をどんどん有利に運んでいく。ところが彼は……という話。


切り口が面白いので飽きずに一気に読める。勿論上にあげた二つの作品も面白いのだが、個人的には「午後」が気に入った。
いずれの作品も、非人間的な近代化に対する批判の意味合いが強いように思う。「産業士官候補生」では産業士官になるためのトレーニングが人間らしさを喪失させるものとして扱われている。たまたま同時に候補生に選ばれた主人公の同級生が、会話を漢語による簡略化された形でしゃべるようになり、表情をコントロールするために手術を受けるくだりなどは、その典型例だろう。
純粋にSF小説として読むのも良いが、そのあたりを掘り下げるのも面白いかもしれない。