ショートショートばかりではなく、伝承、童話など様々な短い物語を集めている。
個人的には萩原朔太郎の「死なない蛸」が入っているのが気に入った。
「左と右」という作品ではコリオリの力が風呂桶では見つけられないことを取り上げている。もう少し早く読んでいれば……


それからボードレール「どこへでも此の世の外へ」の一節

それではお前は、もはや苦悩の中でしか楽しみを覚えないまでに鈍麻してしまったのか? もしもそうなら、いっそそれでは、死の相似の国に向かって逃げ出そう……

若干、病んでいる気がする。

  • E・T・A・ホフマン「砂男」(河出文庫/L)

ホフマンの「砂男」とフロイトの「不気味なもの」を収録。
「砂男」というのはバレエの「コッペリア」の元になった話である。ただし、ストーリーはコッペリアとは比較にならないくらい、暗い。
主人公のナタニエルは、ある家でたまたま見かけたオリンピアという女性に一目ぼれし、自作の詩篇を朗読するなどしてアタックを試みる。彼女は彼の行為にひたすら静かに頷き、ため息をつくばかり。けれどもナタニエルは「彼女が人間であるかどうか」を疑うことも無くオリンピアのもとに通い続け、物静かで綺麗な目をしていると彼女に惚れ込んでいく。
しかし、あるときコッペリウスという鼻持ちならない男が、オリンピアは俺のものだと主張して取り戻しにやって来たうえで、彼女の目をくりぬいてしまう。そのとき初めて、ナタニエルは彼女が人形である事を知る。
ナタニエルは発狂し、かつてのフィアンセをも殺そうとするが、精神病院に送られ、一度は回復する。ところが久しぶりに出かけたとき、コッペリウスに再会。再び精神に異常をきたしたナタニエルは塔の上から落ちて死んでしまう。


この悲劇は結局のところオリンピアが人間である事を知ったために起こったものであるが、それではオリンピアを人間だと思って居続ける事は不幸か否か。


併録されている「不気味なもの」は「砂男」を取り上げながらも「不気味なもの」とは何かということについて論じた文章である。

文学では、現実世界で起これば不気味と思われることの多くが不気味ではなく、そして文学には、現実世界には出番のない不気味な効果を収める可能性がどっさりあるのだ。