アンドレ・ブルトンシュルレアリスム宣言」(岩波文庫/S)


面白い本に出会った場合、いつもなら己の読書経験の貧弱を嘆いて「もう少し早く読んでいれば」というけれども、この本の場合は今になって読んだことを感謝すべきか。高校生時代はこういう考え方ではなかった。大学生になってなんだかひねくれてしまった気がしないでもない。あるいは「ひねくれた」というよりは「変わった」のだと思いたい。本書はいわずと知れたシュルレアリスムの嚆矢にあたる著作である。狂気の擁護、あるいはもっと積極的な狂気の肯定が作家の創造性を確保するための必要不可欠の要素であるということには素直に同意しておきたい。
併収の『溶ける魚』がまた味がある。ミネルヴァの揺籃が蒸発する様を妖艶な感性で表現しており、モーツァルトの郷愁もあにはからんやといったところ。それはさておき、「若後家接吻荘」の由来ってこれだったのね。