阿部和重グランド・フィナーレ」(「群像」2004年12月号)
第132回芥川賞受賞作。直木賞受賞の「対岸の彼女」は出版されていますが、こちらは雑誌掲載されたのみですので、駒場の図書館で探して、コピーして読みました。

主人公の沢見は元カメラマン兼映画監督。結婚はしていたのだが、ロリコン趣味があり、7歳の娘を被写体にした写真を始めとする「ロリコン趣味の写真」を撮影していた。そして、そのことが妻に発覚したのがきっかけで離婚することとなり、ついでに娘に会うことを禁じられてしまう。
それでも娘のことを忘れられなかった主人公は、友人を頼って娘との接触をはかるが上手くいくはずも無い。逆に友人たちに非難されてしまう。それからは娘のいる東京を離れ田舎に帰るものの、仕事を探すでもなくブラブラする日々。
そんな中、知り合いの小学校教師に彼にボランティアの話を持ちかけられた。今度「芸能祭」という祭りを行うから、その中の芝居の演技監督をして欲しいと言うのである。最初は返事を渋っていたが、亜美と麻弥という二人に「最後の思い出にしたいから」と説き伏せられ、演技指導を行うことになる。二人は3月に小学校を卒業すると離れ離れになるのだと言う。選ばれた演目は「勿忘草」の名前の由来になった物語。恋人のために綺麗な草を取ろうとして誤って川に落ちた男が、彼女に「私のことを忘れないで」と言い残すという話である。
演技指導も順調に進んでいったある日、主人公は公民館で二人がインターネットを使っているところを見かける。彼女たちが見ていたのは「自殺マニュアル」というサイトだった。それに気付いた主人公は………



というストーリー。


主人公の考え方がゆっくりと変わっていく過程が丁寧に描写されているのが面白い作品、というのが率直な感想。要するにロリコン趣味の更生の物語。序盤は娘のことしか頭に無いような、いわゆる「危ない人」なのですが、知り合いとの話などを経て、次第に「自己を中心とした考え方」から、「他者を中心に据えた考え方」に変わっていきます。ロリコン趣味がなくなったというわけではないのでしょうけど。
最後に盛り上げるところまで盛り上げておいて、プッツリと糸が切れたように話が終わってしまうので、結末を提示されないと納得できない私のような輩には納得がいかないところもあります。そこが私の読みの浅いところだと言うことなのかもしれませんが。
そういえば本作は「野ブタ。をプロデュース」との決選投票を経て選出されたそうなので、そちらも一度チェックしてみようかと。