マーク・トウェイン不思議な少年」(岩波文庫/A)
サタンの名を借りて、しつこいくらいに人間不信の根拠を挙げた小説です。
作者は、晩年は負債を抱えたり娘の死や妻の病気が重なったりして、ペシミストになるのも仕方ないのですが、それにしてもここまで書くか、というのが率直なところ。
最後は最後で、ベタな悲観的発想になっていますし……

「だって、人生そのものが単なる幻じゃないかね。夢だよ、ただの」
電気にでも触れたようなショックであった。なんだ! そんなことなら、この自分だって、これまで何千度考えたかもしれないのに!」

結局のところ、こう信じさせることこそが、サタンが主人公を陥れるための最後のトリックではないかと思うのですが。


翻訳者は中野好夫。氏が英文学者だと言うことは今更知りました。「『もはや戦後ではない』という言葉を最初に使った」ことしか知らなかったので……orz


Interestingな箇所は色々ありますけど、一つ挙げるなら、魔女狩りによる処刑場の場面での以下のくだりでしょうか。

群衆の間に、一瞬恐怖の稲妻が走った。誰一人名乗り出るものはなかったが、かわりに、たちまち激しい罪のなすくりあいが始まった。(中略)そんなわけで、あっというまに大変な騒ぎになってしまい、さあ、お互いなぐるわ、蹴るわの大乱闘になった。そしてただひとり、この騒動の真ん中でけろりとしていたのは、まだ首を絞られたままぶらさがっている、さきの女だけであった。すべての苦しみは忘れ去られて、心はやすらかな憩いの中にいた。

「憩い」と来ましたか。