乱歩地獄


今回の感想は、内容が内容だけにちょっと隠して書こうかと思う。
ということで、「乱歩地獄」を観にいってきた。シネセゾン渋谷の最終日の最終上映という形で。もう少し早く行っておいたほうが心理的な余裕は持てたのかもしれないけれども、座席のゆとりの面からすればこちらのほうが良かったのかもしれない。
さて内容なのだけれども、この映画は四作からなるオムニバス形式で、すべて浅野忠信が主演級で出演している。ストーリーについては、割と原作に脚色が施されていた。そのまま映像化されるのかと思っていたので意外では合ったけれども、結末を知っている側から言わせてもらえれば、結末が変わってしまったほうが面白いというところはある。別にマニアではないので「原作に忠実に作るべきだ」などと言うつもりは無いので。


「火星の運河」監督:竹内スグル
表現が面白いと思った。あれは映像を愉しめとしか言いようが無い。導入部としてのインパクトは強い。気が付けば、じんわりと別世界に引きずり込まれている感じすらする。
ちなみに撮影はアイスランドで行われたようで。さすがに日本ではあれだけの光景を確保するのは無理か。


「鏡地獄」監督:実相寺昭雄
これは乱歩作品の中でも私が最も好きな作品のうちの一つ。どう映像化するのかと思ったら、いきなり鏡と関係のない殺人事件が起こり、明智小五郎が登場するところから始まって驚かされた。そう、ストーリーそのものがかなり違っているのである。
原作で重視された「完全に球体の鏡の内部に入ると何が見えるのか?」という問にはあまり深くかかわらず、鏡とエロチシズムに焦点を絞っているようだ。それはそれで一貫性の重視ということなのだろうけれども、ちょっと残念ではある。
そういえば、そもそも球体の鏡というのは実現可能なのだろうか。昔、コンピュータでシミュレーションした結果を見つけたことならあったが。


「芋虫」監督:佐藤寿保
これもまたお気に入り作品の一つ。ストーリーはかなり脚色されていた。平井太郎と名乗る男が登場するのが一つ。そして結末で女があのようになるのが一つ。他にも細かいところを挙げていけばきりが無い。
なかなか残酷かつ狂的な美が描かれていて、好みに合っていた。結末については、個人的には面白いと思う。原作は静かに終息を迎えるのに対して、こちらは永久に続く愛情を残しているわけだから、あまりに悲劇的。しかしそれゆえに美的。


「蟲」監督:カネコアツシ
さて、トリをつとめるのは死体の話。これもまた私の好きな話の一つ。だから、その時点で期待大だったのだけれども、さらに緒川たまきがヒロインを演じるというのでどうなるのだろうと思っていたら、これがまたなかなかの出来な訳で。
ストーリーは、女優のお付きの運転手が女優に一目ぼれしてしまい、だんだん感情がエスカレートして、とうとう彼女を絞殺して自宅に運び込むという流れ。殺してしまえば人体は当然腐っていくわけで、そのあたりの展開が最高の見せ場である。生命の無い女体を巨大なキャンバスとし、そこに爆発的な感情を吐露する過程と、それでも「自分の愛情の対象だった」女体が着実に腐っていく現実の描き分けが好き。ただ、結末のアレはどうなのだろう。個人的には二人とも朽ち果てていく結末の方が良かったかな。原作はもはや大幅に無視してしまっているけれども。


それにしても浅野忠信の演技は良かった。よく演じられるなあ。
狂気分も適度に補充できたし、また明日から退屈に生きていくことにしようかな。